実証研究設計

室内環境と安心感・快適度の関係を調べる

このページでは、本プロジェクトがどのような考え方で、何を、どのように計測・分析しているかをご説明します。

1.なぜこの研究が必要か

スマートホームでは、温度・湿度・CO₂(二酸化炭素)・VOC(揮発性有機化合物)などの環境データを数値として取得できるようになりました。
しかし、「数値的に問題のない環境」が、実際に「安心できる」「快適だ」と感じることに、どのくらいつながっているのかは、意外とはっきりしていません。たとえば、CO₂濃度が基準値内でも、なんとなく頭が重い日があります。温度が適切でも、騒音が気になると快適とは感じにくいこともあります。
このプロジェクトは、「環境の数値」と「人の感覚」のあいだにある関係を、実際の生活データから明らかにすることを目的にしています。

2.何を明らかにしたいか

具体的には、次の4つを調べます。
  • 室内の環境データ(CO₂・温度など)は、安心感にどのくらい影響するか
  • 安心感は、総合的な快適度にどのくらい影響するか
  • 数値が基準内でも、不快に感じるケースはどんなときか
  • 「自分で環境を調整したい」と思い始める境界はどのあたりか

単に数値を集めるだけでなく、「安全」「安心」「快適」という3つの関係の構造を可視化することがゴールです。


3.どのような方法で調べているか

研究の形式:運営者自身を対象とした、繰り返し計測による観察研究です。外部の被験者は関わらず、1つの住まいでの継続観察を行っています。

計測のタイミング:毎日3回(朝・昼・晩)、決まった時間帯に記録します。

計測期間:11ヶ月間

通知などによる意図的な介入は行いません。あくまで自然な生活の中で、環境と感覚を記録し続けます。


4.何を記録しているか

環境データ(センサーで自動取得)
項目内容
温度室温(℃)
湿度相対湿度(%)
CO₂濃度二酸化炭素の濃度(ppm)。高いと眠気や頭重感の原因になることがある
VOC濃度揮発性有機化合物の濃度。においや空気質の指標(ppb)
照度明るさ(Switchbot独自の10段階指標)
騒音値音の大きさ(dB)
気圧大気圧(hPa)
主観評価(毎回、自分で記録)
項目内容
身体的違和感頭痛・だるさ・目の疲れ・その他(自由記述)などを選択
温冷感暑い〜寒いを5段階で評価
空気の快適さにおいや空気の重さなどを5段階で評価
静けさの快適感騒音の感じ方を5段階で評価
安心感今の環境への安心度を5段階で評価
総合快適度全体的な快適さを5段階で評価
環境調整意欲「今すぐ何か変えたい」と思うか
自由記述気になる点、改善したい点など

主観評価は、在宅しているときのみ記録します。


5.どんな仮説を持っているか

現時点では、以下の5つを仮説として持っています。データが蓄積されるにつれて、検証・修正していきます。
  1. CO₂濃度が高いほど、安心感は下がりやすい
  2. 安心感が高いほど、総合的な快適度も上がりやすい
  3. 身体的な違和感があるほど、快適度は下がりやすい
  4. 環境の数値が基準内でも、安心感が低ければ快適度は下がる
  5. 一定の環境変化をきっかけに「調整したい」という気持ちが生まれる

6.どのように分析するか

相関分析 CO₂と安心感、VOCと快適度、騒音と静けさの評価など、2つの数値がどのくらい連動しているかを確認します。重回帰分析 「総合快適度」に影響を与えている要素(環境データ・安心感・身体違和感など)を複数同時に分析し、それぞれの影響の大きさを調べます。構造的な検討 「環境データ → 安心感 → 総合快適度」という流れが実際に成り立っているかを確認します。

7.何を結果の指標にするか

  • 総合快適度の平均的な水準
  • 安心感と総合快適度の連動の強さ
  • CO₂濃度と安心感の連動の強さ
  • 「調整したい」と感じ始める環境の閾値

8.このプロジェクトの位置づけ

本研究は、「〇〇が原因で快適度が下がる」という因果関係を断定することを目的にしていません。まず「どんな関係がありそうか」を把握する基礎的な実証です。将来的には、次の3段階で発展させることを構想しています。

ステップ1:環境と感覚の基本的な関係を把握する(現在)

ステップ2:「この数値になったら通知する」といった設計の検証

ステップ3:再現可能な住環境設計モデルの構築


9.まとめ

このプロジェクトは、「安全を数値で確かめ、安心を自分の感覚で測り、快適との関係を明らかにする」という実証研究です。スマートホームの可能性を広げるために、「心理的な安心」を評価の新しい軸として取り入れることを目指しています。

参考文献

中島義明・大野隆造[編集]『すまう――住行動の心理学』新装版、朝倉書店(人間行動学講座)